「不動産業の資金繰りについて詳しく知りたい」
「いつも資金繰りに悩まされる」
このように考えていませんか?
この記事では、不動産業の資金繰りについて、プロが分かりやすくご案内します。
目次
不動産業における資金繰りとは?

資金繰りとは、経営をスムーズに行うために、お金の流れを管理することです。
不動産売買・賃貸業は、資金繰りに悩まされる事業です。
金融庁が2024年に発表した資料によると、国内銀行の不動産業向け貸出残高は年々増加しており、全融資の17%を占めています。
つまり不動産業は融資を受ける金額が多いということです。
次のことができていないと資金がショートしてしまいます。
- 収益がいつどの程度入るのかの見通し
- 日々のお金の流れの把握
- 資金調達先の確保
特に、不動産を取得するためには多額の資金が必要ですので、資金調達先の確保は重要です。
参考)金融庁「地方銀行における不動産業向け貸出及びその債務者区分の動向に関する分析」
不動産業の資金繰りで必要な8つの費用項目
お金の流れを把握するのにお役立ていただくために、それぞれご案内します。
【費用①】不動産の購入費用
不動産売買・賃貸では、不動産を購入する必要があります。
物件によっては、数千万円~数億円の費用がかかります。
全て自己資金で用意するのは難しいため、金融機関から融資を受けて購入します。
【費用②】不動産のメンテナンス費用
メンテナンスには次のものがあります。
- クリーニング
- 水まわり・給湯器など設備の修繕
- 外壁など建物の修繕
こまめにメンテナンスを行うことで、建物を長期間維持できます。
【費用③】人件費
会社の規模が大きくなるほど、人員の給与や賞与、採用に費用がかかります。
2024年に国税庁が公開した資料では、不動産業・物品賃貸業の年間平均給与は468万6千円でした。
給与不払いは法律(労働基準法第24条)違反です。
授業員からの信頼を失うので、必ず資金を確保してください。
参考)国税庁「民間給与実態統計調査」
【費用④】事務所・店舗の運営費
運営費には、次のものがあります。
- 家賃
- 水道光熱費
- 通信費
令和4年度の不動産業者の月々の地代家賃の平均は次の通りです。
- 法人企業合計 ・・・384,807円
- 従業員5人以下・・・300,245円
- 従業員6~20人・・・679,562円
- 個人企業・・・7,442円
※中小企業庁が公表している資料を元に計算
個人企業が少ないのは、自宅で開業しているからです。
参考)中小企業庁「中小企業実態基本調査」
【費用⑤】広告宣伝費
物件を宣伝するためには、次の方法があります。
- 不動産ポータルサイトへの掲載
- HP作成、Web広告費
- ポスター制作
- チラシ制作、ポスティング
ポータルサイトの掲載料は月額1万円~です。
ポスターやチラシの制作、チラシのポスティングには数万~数十万円かかります。
【費用⑥】車両費
車両費として計上されるのは次の項目です。
- 車の購入費
- 駐車場代
- ガソリン代
- 保険料
- 自動車税
車種によってかかる費用は変わります。
購入する場合は維持費も含めてご計算ください。
【費用⑦】納税資金
法人が支払う税金は、次の通りです。
利益に応じてかかる税金 | 法人税、法人事業税、特別法人事業税、法人住民税(法人税割) |
---|---|
利益に関係なくかかる税金 | 消費税、地方消費税、法人住民税(均等割り)、固定資産税 |
税金は年に1回、自社の事業年度終了月から2ヵ月以内に支払います。
【費用⑧】外注費など
例えば、税金を納めるには税理士、給料の計算には社会保険労務士に依頼することになります。
ホームページ作成費やサブスクで利用しているWebサービスなどもあります。
不動産業の資金繰りで必要になる金額

事業を行うための資金には、次の2種類があります。
- 2種類の資金
資金 | 概要 | 例 |
---|---|---|
運転資金 | 継続的に必要な資金 | 給与・宣伝広告費・家賃・水道光熱費 |
設備資金 | 一時的に必要な資金 | 不動産仕入れ費・修繕費・備品購入費 |
運転資金は3~6ヵ月分、確保してください。
例えば建物が破損するなど、日々いろいろあり、ある程度の余裕がないと資金繰りがショートしてしまうかもしれないからです。
金額例を挙げます。
- 運転資金の金額の例
費用項目 | 金額(毎月) | 内訳 |
---|---|---|
人件費 | 90万円 | 従業員3名×30万円 |
事務所・店舗の運営費 | 30万円 | 家賃25万円・水道光熱費・通信費5万円 |
広告宣伝費 | 5万円 | チラシ作成3万円・HP管理費2万円 |
車両費 | 3万円 | 駐車場代・ガソリン代・保険料 |
その他 | 2万円 | 消耗品 |
合計 | 130万円 |
あくまで一例ですので、御社の現状に合わせて計算してください。
毎月どんなお金が必要になるのかを洗い出してください。
物やサービスの金額は変わりますので、定期的に見直しをしてください。
なお、開業にかかる金額の目安は、約400万円~600万円です。
- 開業資金の金額例
費用項目 | 金額 | 内訳 |
---|---|---|
不動産保証協会 | 80万円 | ・入会金20万円 ・保証金分担金60万円※ |
宅建協会 | 50万円 | 入会金 |
事務所の費用 | 200万円 | 敷金礼金・設備機器・通信費 |
車両費 | 150万円 | 車両購入代 |
宅建免許 | 3万3千円 | 申請費 |
法人設立費 | 24万円 | 登録免許税・収入印紙・手数料 |
合計 | 507.3万円 |
保証金分担金とは、営業保証金のことです。
不動産業の開業には、宅地建物取引業法第25条で営業保証金の供託が義務付けられています。
次の2つの方法から選びます。
- 法務局に1,000万円の営業保証金を供託する
- 不動産保証協会に60万円の保証金分担金を納付する
営業保証金は高額なため、不動産保証協会に加入する企業が多いです。
不動産業で資金繰りを良くするための4つの資金調達方法
詳しくご案内します。
【方法①】金融機関を利用する
金融機関で融資を受ける方法です。
金融機関には次の種類があります。
- 銀行
- ノンバンク
- 信用金庫
- 信用組合
- 日本政策金融公庫
それぞれの融資の詳細は次の通りです。
- 金融機関の融資の比較
金融機関 | 融資スピード | 審査の厳しさ | 融資可能額 | 金利目安 |
---|---|---|---|---|
銀行 | 遅い | 厳しい | 高い | 1~3% |
ノンバンク | 早い | 緩い | 有担保なら高い | 3~18% |
信用金庫・信用組合 | 遅い | やや緩い | やや低い | 2~6% |
日本政策金融公庫 | 遅い | 厳しい | 高い | 1~3% |
事業の機会を逃さないためにはスピードと融資の上限金額が大事です。
両方兼ね備えているのはノンバンクの不動産担保ローンです。
【方法②】ファクタリングを利用する
ファクタリングとは売掛金や家賃の債権を売却して資金を得る方法です。
不動産賃貸業では毎月安定して賃料やテナント料収入があるので、ファクタリングと相性が良いです。
- 2者間ファクタリング・・・利用者とファクタリング会社で契約
- 3者間ファクタリング・・・2者に売掛先の企業も含めて契約
- 2つのファクタリングの比較
種類 | 入金スピード | 審査の厳しさ | 調達可能額 | 金利・手数料 |
---|---|---|---|---|
2者間 | 早い | やや緩い | 債権金額による | 8%~18% |
3者間 | やや早い | 緩い | 債権金額による | 2%~9% |
【方法③】不動産ファンドを利用する
不動産ファンドとは、投資家から資金を集めて不動産を運用し、その収益を投資家に還元する方法のことです。
不動産投資信託とも呼ばれます。
所有している物件を証券化し、不動産ファンドを設立するのですが、手続きが非常に複雑です。
簡略化したい場合は証券会社へファンド組成への委託をご検討ください。
不動産を証券化することで、次のような現物不動産が持つリスクを分散できます。
- 災害による損壊
- 老朽化
分散できる理由は、投資家が投資金額に応じて権利と共にリスクを負っているからです。
【方法④】クラウドファンディングを利用する
オンラインで多数の人から少額の出資を得ることで、資金調達する方法です。
プロジェクトの詳細や目標金額を決めて、募集サイトで出資者を募ります。
利用料は集まった金額の5~10%です。
魅力のあるプロジェクトなら、実績や自己資金が無くても資金調達できます。
出資者へのリターンは、プロジェクトで上がった収益で行います。
不動産業の資金繰り改善に利用できる短期借入

短期借入とは、返済期間が1年以内の融資です。
短期借入の例を挙げます。
- ①プロジェクト融資
- ②賞与・納税資金の融資
- ③当座貸越
それぞれ詳しくご案内します。
①プロジェクト融資
プロジェクト融資とは、不動産開発プロジェクトの収益性に応じて、プロジェクトにかかる費用の融資を受けることです。
自社の資金を温存できるため、資金繰りに役立ちます。
- ポイント
項目 | 詳細 |
---|---|
金額 | 100万円 ~ 20億円(プロジェクト規模による) |
期間 | 1年以内(まれに2~3年) |
担保 | プロジェクトの収益性・不動産 |
備考 | 宅地建物取引業免許を持つ不動産事業者が対象 |
社歴・実績に関わらず借入できます。
銀行では審査に時間がかかるので、お急ぎの方はノンバンクをご検討ください。
②賞与・納税資金の融資
短期で分割で返済するため、銀行にとってリスクが少ないという理由で、借り入れしやすい融資です。
賞与や納税資金を借入することで、運転資金を温存できます。
- ポイント
項目 | 詳細 |
---|---|
金額 | 賞与・納税に応じた金額 |
期間 | 6ヵ月 |
担保 | 契約内容による |
備考 | 資金使途以外に使用不可 |
同じ金融機関に申し込み続けると実績ができ、何かあったときの資金繰りの相談がスムーズになります。
③当座貸越
当座貸越(とうざかしこし)とは、あらかじめ決められた金額、期間内なら自由に借入できる融資のことです。
- ポイント
項目 | 詳細 |
---|---|
金額 | 返済能力の評価による |
期間 | 1年 |
担保 | 定期預金・不動産・有価証券 |
備考 | 資金使途が自由(契約で制限がある場合を除く) |
何度も審査の手間をかけず、必要な金額だけを素早く借入れできます。
ただし利用するための審査が厳しいですし、金利は高いです。
不動産業の資金繰り改善に利用できる長期借入

長期借入とは、借入期間が1年を超える融資のことです。
長期借入の一例を挙げます。
- ①不動産担保ローン
- ②日本政策金融公庫
- ③制度融資
それぞれ詳しくご案内します。
①不動産担保ローン
不動産担保ローンとは、不動産を担保にして受ける融資のことです。
- ポイント
項目 | 詳細 |
---|---|
金額 | 不動産評価の6~8割 |
期間 | 10~35年 |
担保 | 不動産 |
備考 | 資金使途が自由(契約で制限がある場合を除く) |
実績がなくても低金利で高額を借入れできます。
運転資金や設備資金といった使途制限はなく、幅広い用途に使用できます。
ただし、返済が滞ると不動産を失うリスクがあります。
②日本政策金融公庫
日本政策金融公庫とは、日本公庫とも呼ばれる国が100%株主の政策金融機関のことです。
いろいろな融資制度があります。
例えば、女性か35歳未満・55歳以上の条件で金利優遇される制度で「新規開業・スタートアップ支援資金」があります。
- ポイント
項目 | 詳細 |
---|---|
金額 | 7,200万円(うち運転資金は上限4,800万円) |
期間 | 運転資金7年以内/設備資金20年以内 |
担保 | 契約内容による |
備考 | 事業開始時または事業開始後7年以内の方が対象 |
この他にも融資制度があります。
全国各地に支店がありますので、相談してください。
③制度融資
制度融資とは、地方自治体・金融機関・信用保証協会の3者が連携して行う融資です。
目的は小規模事業者や中小企業の融資を支援することです。
具体的には自治体が信用保証協会の保証料や金融機関に支払う利子の補助を行います。
例えば東京都が創業者向けに行う「東京都中小企業制度融資(創業融資)」の内容は次の通りです。
- ポイント
項目 | 詳細 |
---|---|
金額 | 3,500万円 |
期間 | 運転資金7年以内/設備資金10年以内 |
金利 | 固定1.7%以内~2.2%以内又は変動 |
担保 | 不要 |
保証人 | 必要な場合あり |
備考 | 信用保証料の2/3を補助 |
都道府県や市町村が独自に行っているので、自治体によって内容が異なります。
詳しくは、お住まいの地域の制度融資の窓口に問い合わせてください。
不動産業で資金繰りを安定させる3つのポイント
詳しくご案内します。
【ポイント①】資金繰り表を作成する
資金繰り表を作成することで、資金の流れを可視化できるからです。
メリットは次の通りです。
- 資金不足になるタイミングを把握できる
- 無駄な支出がないか確認できる
- 将来の収支を予想できる
まずは、顧問税理士に相談してみてください。
作成の際はExcelのようなツールを使うと便利です。
雛形がインターネット上にありますのでチェックしてみてください。
【ポイント②】負債比率を管理する
負債比率とは、自己資本に対して負債がどの程度あるのかを表す指標のことで、倒産の危険性を数値で把握できます。
数値が低いほど倒産の可能性が低いです。
計算方法は次の通りです。
- 負債比率 = 負債 ÷ 純資産(自己資本) × 100
中小企業庁から発表された2017年度の資料によると、不動産業・物品賃貸業の負債比率は173.3%です。
1つの目安としてお役立てください。
参考)中小企業庁「中小企業の経営指標」
【ポイント③】税金対策をする
具体的な方法は次の通りです。
- 不要な不動産を処分する
- 出張旅費の規定を作成する
- 設備投資する
- 従業員の賃上げをする
- 赤字を翌年以降に繰り越す
- 消費税の課税方法(簡易課税・原則課税)を見直す
出費を伴う節税は、過度に行うと資金繰りを悪化させます。
税理士と相談しながら、御社の状況に合わせて対策をしてみてください。
不動産業の資金繰りについてのまとめ
不動産業の資金繰りを改善する4つの資金調達方法や融資についてご案内しました。
どの方法が合うかは御社の状況によって異なります。
会社の数字を把握し、金融機関や税理士と相談しながら、資金繰りを行ってください。