「親が亡くなったとき、絶縁した兄弟との相続手続きがスムーズに進むか不安」
「親が元気なうちにできる対策ってある?」
このように悩んでいませんか?
この記事では、絶縁中の兄弟に遺産相続させない方法などを、プロが分かりやすくご案内いたします。
目次
絶縁中の兄弟にも遺産相続の権利はある?
絶縁中であっても、亡くなった方の子である兄弟には相続権があります。
相続人が誰か、どれだけ相続の権利があるかは民法ではっきり決められているからです。
遺産分割協議をする際は、絶縁した兄弟との話し合いは避けられません。
法定相続分で相続する場合、子が受け取る遺産の割合は次の通りです。
- 状況別の子の相続割合
相続人 | 相続割合 |
---|---|
配偶者+子 | 遺産の1/2を子の数で分割 |
子のみ | 遺産全額を子の数で分割 |
絶縁した兄弟に遺産相続させない5つの方法
それぞれ詳しくご案内します。
【方法①】相続人廃除を申し立てる
相続人廃除とは、被相続人本人の意思で家庭裁判所へ「特定の相続人の相続権を失わせたい」と申し立てる方法です。
ただし、被相続人の要望だけでは認められません。
民法892条で定められた条件は、相続人に次のような行為があるときです。
- 被相続人への虐待
- 被相続人への侮辱
- その他著しい非行
手続き方法には、被相続人本人が申し立てを行う「生前廃除」と、遺言執行者に申し立てを依頼する「遺言廃除」があります。
【方法②】相続欠格事由がないか確認する
相続欠格とは、遺産を手に入れるために不正を行った相続人が相続権を失う制度です。
民法891条により相続欠格が認められる条件は次の通りです。
- 被相続人や相続人を殺害(未遂)して実刑に処された
- 被相続人が殺害されたと知りながら告発しなかった
- 詐欺や強迫により被相続人の遺言を妨げた
- 詐欺や強迫により被相続人に遺言を強要した
- 遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した
相続欠格事由の条件を満たせば、被相続人の意思・裁判所への申し立ては不要です。
【方法③】遺言書を作っておく
遺言書を作るメリットは次の通りです。
- 相続させたくない人に財産を残さないようにできる
- 相続人同士で遺産分割協議をせずに相続手続きできる
- 被相続人の意思を尊重できる
ただし、被相続人の子である兄弟には法定相続分の1/2の遺留分が認められます。
相続を遺言書通りに済ませたとしても、遺留分侵害額請求されることはあり得ます。
【方法④】生前贈与する
絶縁中の兄弟以外に生前贈与を行って、絶縁中の兄弟への遺産を減らす方法です。
ただし、相続人への生前贈与は「特別受益の持ち戻し」となる場合があります。
ある相続人だけが生前贈与を受けていた場合、不平等を解消するために生前贈与された財産も相続財産として考える制度です。
持ち戻しを避けるためには、遺言書で「特別受益の持ち戻しは免除する」と明記しておく方法が確実です。
ですが遺留分を請求された際は、持ち戻し免除の意思表示の有無を問わず相続財産として計算します。
【方法⑤】兄弟に相続放棄を依頼する
相続放棄とは、相続時の財産や負債を相続する権利や義務を一切放棄することです。
相続放棄をした人は相続人ではなくなり、相続手続きに参加せずに済みます。
兄弟が遺産を相続するより手続きを嫌がる場合、応じてくれる可能性があります。
ただし相続放棄は本人の意思で行うため、絶縁中の兄弟に強要はできません。
相続放棄を行うためには、被相続人が亡くなったことを知った3ヵ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述をします。
【4つのパターン別】絶縁中の兄弟との遺産相続手続きへの対処法
遺言書がない場合、相続手続きは一般的にまず遺産分割協議からはじまります。
絶縁した兄弟と手続きを進める対処法をパターン別でご覧ください。
詳しくご案内します。
【パターン①】相手の連絡先・行方を知っている
連絡先を知っている場合は、速やかに連絡を取ってください。
その際はメールや手紙でやり取りすると3つのメリットがあります。
- 直接会わずにやり取りできる
- 冷静に話し合える
- もめごとになったときに客観的な証拠が残る
文書でやり取りするポイントは、自分の意思を書くことです。
文書ならではの勘違いを起こさないよう、あいまいな書き方は避けてください。
【パターン②】相手の連絡先・行方を知らない
役所で戸籍の附票を取り寄せれば、相手の今までの住所が分かるので、最新の住所に連絡してみてください。
どうしても分からない場合は、家庭裁判所で不在者財産管理人を選任して、代理で相続手続きに参加してもらいます。
不在者財産管理人となるのは、推薦された相続人以外の第三者や弁護士・司法書士といった専門家です。
また連絡が途絶えて7年以上経つ場合は、死亡したものとして失踪宣告の申し立てができます。
【パターン③】連絡しても返信がない
手続きをしないデメリットを次の通り伝えてみてください。
- 相続税の納税期限を過ぎれば延滞税がかかる
- 不動産登記の期限を過ぎれば過料が科される
- 不動産には高額な固定資産税や損害賠償の恐れがある
- 債務の方が多くても相続放棄できなくなる
- 預金や株式の権利が消滅する恐れがある
- 遺留分侵害額請求の権利がなくなる
- 相続回復請求権・相続分の取り戻しを請求できなくなる
それでも応じない場合は、弁護士への依頼や調停の申し立てを検討することも伝えてください。
弁護士費用がかかったり、調停に参加する手間がかかったりするので、話し合いが一番良いと考えてもらいやすいです。
【パターン④】遺産が要らない
自分が遺産をもらうより絶縁中の兄弟と手続きをすることにデメリットがあると感じるときには、相続放棄がおすすめです。
先ほどもご案内しましたが、相続放棄すれば相続権がなくなり、絶縁中の兄弟とやり取りせずに済みます。
みなし相続財産や遺贈分を受け取っていなければ、相続税の支払い義務はありません。
ただし相続放棄が認められた後での撤回はできないので、しっかり検討してください。
絶縁した兄弟との遺産相続の3つの注意点
それぞれご案内します。
【注意点①】遺産分割協議は法定相続人全員の同意が必要
相続権がある兄弟抜きで協議することは、兄弟の権利を侵害するからです。
1人でも法定相続人が同意していない遺産分割協議は、無効です。
遺言書がなく遺産分割協議を行う必要があれば、絶縁した兄弟にも協議に参加してもらってください。
直接会えないなら電話・手紙・メールでの協議でかまいません。
協議の際は、遺産分割協議書を作成しておくのがおすすめです。
同意の証明となり、金融機関での手続きで何度も兄弟に連絡せずに済みます。
【注意点②】遺産分割前はお金に手を付けない
民法898条により、遺言書がない相続財産は遺産分割が完了するまで相続人全員で共有すると定められているからです。
無断使用した場合は、次のような対応が取られます。
- 分割時にその分を差し引いて相続する
- 損害賠償請求される
後で精算されたとしても、勝手な使い込みは相続人同士のトラブルの要因です。
絶縁している兄弟とこれ以上問題が起きないよう、注意してください。
【注意点③】協議完了前でも相続税は10ヵ月以内に払う
遺産分割協議が滞っていても、相続税の申告・納税期限は延長されないからです。
たとえ調停中であっても、認められません。
期限までに協議が終わらなければ、仮に法定相続分を相続したものと計算して申告・納税します。
全財産の分割が決定した後で、改めて過不足分の請求・修正手続きができます。
ですが、協議が終わらないと相続分から納税できないので、期限までに終えられるよう早めに協議を始めてください。
遺産相続の発生後に兄弟と絶縁する5つのケース
それぞれのケースをご案内します。
【ケース①】遺産分割内容に不満がある
「自分はもっともらえるはずだ」と考え不満をためる要因は次の通りです。
- 遺言で示された相続分が法定相続分より少なかった
- 特定の相続人が親を世話・介護していた
- 偏った生前贈与があった
遺産1,000万円を兄弟2人で相続する。
弟は法定相続分通り、兄弟で折半しようと申し出た。
だが、親の近くに住んでいた兄が「10年以上介護してきたから多めに相続する」と主張した。
弟は「週1回会いに行っていただけで、介護負担はそこまで重くない」と考えており、寄与分を認めたくない。
【ケース②】不動産がある
不動産は分けづらく、相続トラブルが起こりやすいです。
主なトラブルの要因は次の通りです。
- 分割方法が決まらない
- 評価の方法が決まらない
- 使用・売却が困難な不動産を相続したがらない
- 相続税が払えない
母が亡くなり、兄弟3人が相続人である。
実家で同居していた次男はこれからも住み続けたいと考えている。
だが、長男・三男は「自分たちにも権利があるから、売却してお金を分けたい」と主張する。
次男は実家を受け継ぐ代償として支払えるお金はないが、売却もしたくないと反対している。
【ケース③】1人が遺産を使い込む
先ほどもご案内しましたが、分割前の遺産は共有財産なので、次のように1人が勝手に使い込むことでトラブルに発展します。
- 預貯金を勝手に引き出して使用する
- 話し合わずに不動産を売却する
- 株式を売却し自分の口座に入金する
- 不動産賃料を横領する
亡くなった父はアパート経営をしており、姉妹2人で相続する。
姉は「父の口座が凍結しているので、いったん姉名義の口座に賃料を振込してもらう」と言い、妹も同意した。
だが後に妹は、姉の口座に残っている賃料が少ないことに気付いた。
姉は「記録にはないがアパート管理に必要なお金だった」と主張する。
妹は「私的な使い込みで、自分にも賃料の権利がある」と対立している。
【ケース④】親の生前と意見が変わる
軽い雑談では納得していた話でも、いざ相続となると次のように考えが変わる人がいます。
- 遺産は要らないと言っていたのに、欲しいと主張された
- 実家に住んでいいと言っていたのに、権利を主張された
「以前こう言っていたから大丈夫」ではなく、きちんと相続を見据えた話し合いで意見を聞いてみてください。
母が亡くなり、兄弟2人で遺産相続する。
兄は以前何度か「弟は同居して介護しているから、遺産は弟がもらえばいい」と言っていた。
弟は実家や預貯金はいずれ自分のものになると考え、資金計画をしてきた。
だが、いざ相続となると兄は折半を主張した。
遺産全額をもらうつもりだった弟とのトラブルに発展した。
【ケース⑤】知らなかった財産が発覚する
親の財産がどれくらいあるのか、聞けるうちに確認しておいてください。
遺産が少ないから準備不要と考えていても、次のように思わぬトラブルに発展するケースがあるからです。
- 実は多額の預貯金があった
- 調べたら遠方の家屋を所有していた
- 忘れられていた株式の価値が上昇していた
- 協議後に新たな資産・負債が発覚した
- ないと思っていた借金の請求書が届いた
父が亡くなり、姉弟2人で相続する。
金額が少ないので、弟は姉が全額相続することに同意した。
だが、後から忘れられていた株式が発覚した。
姉は「全額相続すると同意を得ている」と主張した。
弟は「金額が多いならやはり相続したい」とトラブルに発展した。
遺産相続の発生後に兄弟と絶縁した場合の6つの対処法
詳しくご案内します。
【対処法①】第三者に仲介してもらう
絶縁中の兄弟と直接話さずに済み、冷静な話し合いができるからです。
他の相続人や親族・共通の友人に仲介をお願いしてみてください。
ただし第三者を挟むことで、自分の意図と異なる伝わり方になる危険性があります。
伝えたい内容は文面で託すといった工夫をすれば、すれ違いを防げます。
【対処法②】弁護士に依頼する
遺産相続トラブルの専門家である弁護士なら、法律に則って対処してもらえるからです。
連絡を取りたくない絶縁中の兄弟とのやり取りが全て任せられます。
さらに戸籍謄本の収集・被相続人の資産調査といった相続の手続きを合わせて依頼できます。
ただし依頼が増えるほど、かかる費用は高額です。
トラブルの解決が自分たちだけでは難しいときには、依頼を検討してみてください。
【対処法③】遺産分割調停を申し立てる
家庭裁判所で遺産分割調停をすれば、調停員が公平にお互いの意見を聞いてくれます。
調停員が別室で順番に主張を聞き、合意できるよう解決策を提案します。
合意に至らず遺産分割審判に移行しない限り、裁判官や調停員は分割内容を判断しません。
調停は一般的に約1〜2年かかり、6~10回程度話し合いの場が持たれます。
長期かつ複数回、平日昼間の調停に出席する負担があります。
【対処法④】不当利得返還請求する
相続における不当利得返還請求は、1人の相続人の使い込みが発覚した際に自分の権利分の返還を求める場面で有効です。
不当利得返還請求の時効は、次の通りです。
- 請求権利発生を知ったときから5年
- 請求権利が発生したときから10年
請求する場合には、権利が失われないよう速やかに手続きを始めてください。
【対処法⑤】遺留分を請求する
先ほどご案内した通り、被相続人の子どもには遺留分が認められています。
兄弟に偏った遺言が残されており、自分の遺留分が侵害されているときに請求できます。
認められる遺留分は、自分の法定相続分の1/2です。
次の通り時効があるので注意してください。
- 遺留分侵害があることを知ってから1年
- 相続発生から10年
【対処法⑥】遺言無効確認請求する
遺言書が無効となる要因が考えられるときは、遺言の無効を主張できます。
主な要因は次の通りです。
- 作成方式において民法上のルールが破られている
- 遺言者の意思能力が欠如している
- 強迫・詐欺・錯誤の影響を受けている
- 偽造・変造されている
遺言書無効確認請求には時効がありません。
遺言の無効が認められれば、遺産分割協議に進みます。
絶縁した兄弟との遺産相続についてのまとめ
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